「禅とジブリ」 鈴木敏夫 淡交社 を読みました (読書感想)

先日あるお坊さんの本を探していたら関連でジブリのプロデューサーの鈴木さんの書かれた「禅とジブリ」という本が出て来たので購入してみました。

タイトルがストレートなのに惹かれました。

 

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アマゾンからお借りしました。(淡交社

 

この本とても良い内容なのですが人生の達人同士が喋ってるような感じで良く分からない箇所もあるかと思いますので気になる所を噛み砕いてご紹介しようと思いました。

 

鈴木敏夫さんと3人の禅僧の対談

 

この本はジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さんの対談の本になっています。

しかしその相手が全員禅僧。禅の修行を長年された臨済宗のお坊さんとの対話です。

 

内容的にはとても読みやすく編集者の方の力量かと思います。

 

そもそも淡交社(たんこうしゃ)とは京都に本社のある茶道関係の本を出版されている会社です。

「淡交」とは中国の戦国時代の思想家荘子(そうし・そうじ)の「君子の交わりは淡きこと水の如し」から来ています。

道教の思想家で中国の理想的な人物の一人です。

 

荘子 - Wikipedia

 

 

この淡交社の編集の方から「なごみ」という雑誌の連載をしないかと持ちかけられたのがきっかけで鈴木さんがNHKで観た細川晋輔住職に興味を持たれたことから始まります。

 

淡交社

 

世田谷龍雲寺住職 細川晋輔さんとの対談

 

最初は東京の龍雲寺の若手ご住職細川晋輔さんとの対談です。

この細川さんのお父さんは京都妙心寺の役員としても活躍された方で大河ドラマ独眼竜政宗」の禅宗指導をされた方としても有名です。

 

祖父は松原泰道さんといって般若心経や観音経の一般的な解説書を出してベストセラーのなった方でこの方もまた有名です。

 

松原泰道 - Wikipedia

 

晋輔さんも2017年大河ドラマ「直虎」の禅宗指導をされています。まだ30代ですが本山で長年厳しい修行もされていますから適任かと思います。

東京に住んでいるとマスコミにも声をかけられて大変でしょうね。

 

細川さん自身大変なジブリファンだったそうでとてもお話が盛り上がったそうです。

 

坐禅はゴミ捨て場

 

細川

今の時代、「何かをしたら、何かを得たい」という気持ちが強い。しかし坐禅は何かを得るというより、捨てる場だと思うんです。

 

お寺に来る方も、若い方が増えました。 やっぱり、自分を見つめる機会を求めているんでしょうね。ヨガをしたり食生活を変えたりする一環で、坐禅をする。時間の使い方が変わったということですよね。

 

細川住職の言葉です。

私も坐禅にいらっしゃる方がいると良くお話するのは

「いる物といらない物を考えて背負ってる荷物を減らす。どんな物にも優先順位を付けてやる事やらない事をはっきりしましょう。」と言っています。

 

悩む対象は少ない方が良いです。

うちに坐禅にいらっしゃる方も若い方ばかりですが仕事や人間関係の悩みが多いですね。これは昔からずっと人間の悩んでるテーマですね。

 

 

 円覚寺派管長 横田南嶺(なんれい)老師との対談

二人目の和尚は円覚寺派横田南嶺老師。

円覚寺は鎌倉の名刹で沢山の個性的な和尚を排出している事で知られています。

 

古くは川端康成夏目漱石も参禅したという坐禅会がある事で知られています。

 

そこの管長(かんちょう)、1番の代表が横田老師。

老師というのは中国語で先生という意味で師匠に悟りを開いたと認められた人です。

10何年も修行したりずっと修行の生活を続けている人です。

 

臨済宗では老師は例外をのぞいてみなさん独身です。

 

鈴木さんは若い時に円覚寺坐禅体験をされていて強烈な記憶があったそうです。

「憧れの気持ちを持った」ともおっしゃっています。

 

鈴木 

死は近くにあるもの、いや、なきゃいけないものだと思うんです。今の世の中、あまりにも死を隠そうとするじゃないですか。

 

横田

そうなのよ。テレビでも何でも、隠しちゃうでしょう。

 

鈴木

ジブリのことを話しちゃいますけれど、僕らは『火垂るの墓』という映画で死体を扱ったんですね。舞台は戦時中、荒れ果てた状況で死体はどうなるのか。肉は腐り、ウジ虫がわく、これをリアリズムで描いたんです。これは嫌われましたね。

 

 

これは最近良く言われる事で昔は一つの家族の構成人数が多かった。祖父母、父母、兄弟。そうすると家族の死に立ち会う機会が多かった。

 

最近では70年ぶりにお葬式を出したというお宅がありましたがこれは子供に「死」を教えるという意味では良くないですね。

 

ですから皆さんは身内に死があったらこれを是非子供たちの教育の機会と考えて命というものを教えていただきたいと思います。

 

禅のすべては「着て」「食べて」「出して」「寝る」。ああその通りだなと。  横田

 

横田

我々は、「自分に必要か必要でないか」を判断しないと大変なことになるだろうと。

鈴木

それはおもしろいですね。必要か必要でないか。

横田

だって要らないものもあるじゃないですか。

鈴木

そうです。要らないものだらけです。

横田

それを、仏教では「足るを知る」と言ったんですけれどね。自分はこれで十分だという範囲を見失ってはいけない。なおのこと、一人ひとりの判断力が必要です。それは「自分にとっての幸せは何であるか」を考えることでもあります。便利になった結果、不幸になって「こんなはずでは」というんじゃ何にもならないと思うんですよね。

 

 

これは私も先ほども触れましたけれど物事の優先順位を決めてキープするものと捨てる物を自分で判断する。何でもかんでもは手にはいりません。

 

これは物質もそうですが人間関係や仕事にも応用できると思います。

誰にでも好かれる事はできませんし、みんなに好い顔をしていると自分で自分ががんじがらめになってしまい窒息してしまいます。

 

坐禅の体験に来る方も仕事関係の人間関係で悩まれてる方が多いですが、お付き合いをする方、しない方を決めると良いと思います。

そして自分に嫌な事をする人は「どうしてこのような人間に育ったのだろう?」と想像してみて欲しいと思います。

 

きっとその人がそのような人物に育ったのは自分がそのようにされて育ったからだと思います。想像すると可哀想と思いませんか?

そしてその方は今きっと「地獄」にいると思います。

 

坐禅は心の調合

 

横田

親しい先生に漢方薬を出してもらいました。

「ああ体が温まる、何が入ってるの?」と訊いたら「管長、これにはトリカブトが入ってるんです」だって。

トリカブトは毒として有名ですが、実はすぐれた漢方薬なんですよ。

微量に摂れば体が活性化する。大量に摂ると毒になる。

怒りや憎しみ、競争心もそうなんですよ。ほどよく入っていれば、人間の体は元気になって働いていける。

 

鈴木

ちょっとの毒が必要なんですね。

 

横田

怒りや憎しみの場合は、それを調合するのは自分なんですよ。

坐禅が自己を見つめるというのはそこのことです。

どれくらい調合すれば、体を活性化させられるか。多かったら、逆にダメージを与えるわけですから。静かに坐って、自分にどれくらいのものが必要か、自分の体がどういう状態であるかを見つめるんです。

 

修行時代にはやっぱり嫌な先輩がいましたがそのおかげで「なにくそ!」という気持ちが出て頑張れましたね。

 

 

"日本的がおもしろい"

3人目は芥川賞作家でもある玄侑宗久(げんゆうそうきゅう)さんとの対談です。

玄侑さんは福島県三春町にある福聚寺の住職です。

実は近くのお寺の集まりでお見かけしています(話してはいません)。

もちろん臨済宗妙心寺派のお坊さんで著作を読んだ印象では物凄い博識だなと思いました。

 

玄侑

私は、ジブリ作品ってすごく日本的だと思うんです。

たとえば小説家の村上春樹さんの作品って、火鉢から何から日本にしかないものは出てこない。翻訳できないものが出てこないんです。

ああいう国際性もあるのかもしれませんが、私には馴染めないんです。

ところがジブリは正反対じゃないですか。『ぽんぽこ』だって、外国には「タヌキは化ける動物」という前提そのものがない。

それをまったく気にしないで、「日本人が楽しめれば、海外の人も楽しんでくれる」と思ってるんだろうな、と。

 

鈴木

高畑さんは(外国人にわかるかどうか)多少考えてると僕は思うけれど(笑)。一方、宮さんはまったく考えていません。 

 

(略)

 

千と千尋』に関しては、かつてNHK教育テレビで毎週日曜日に「ふるさとの伝承」という日本各地のお祭りなどを取り上げる番組が放送されていて、これは偶然なんですけれど、僕と宮さんはそれを見続けていたんですよ。『千と千尋』は、お互いその前提があったから、すぐにおもしろいということになって、やろうと。

 

玄侑

結局、監督や鈴木さんが楽しめることをやっていらっしゃる。

 

鈴木

神さまだってたまにはバカンスが必要だと。日本の人たちが何となく思ってること、それを映画にしたいという感じなんです。

最初から外国の人は相手にしていないんだけど、結果として「ああ日本にはこういうことがあるんだ」という物珍しさ、それに飛びついてくれるんです。

 

玄侑

より日本的なほうが、興味を持ってもらえると。

 

これは日本文化全般に言えることと思います。

江戸時代という平和で鎖国している時代が250年もあった。

その中で経済的に豊かになったのもあって様々な文化も豊かになった。

鮨や天ぷらなどの高級料理が庶民の食文化から発展したのは有名ですね。

歌舞伎、落語、俳句、浮世絵も江戸時代に生まれたり盛んになっていますね。

これは誇って良いと思います。

独自の文化のない 国も世界には沢山ありますから。

 

 

まとめ

先日ツイッターに競技かるたの大会でフランス人チームが優勝したというニュースが流れて来ました。海外の方がかるたを面白がって憧れて始めてそれが盛んになる。

なかなか稀有なことだと思います。

しかし日本の文化を面白いと思ってくれるケースは沢山あります。

 

精神文化にしてもそうですね。

禅の精神もそうですがおもてなしの文化や相手の立場になって考える文化。

しかしこれらも昔から大切にして来た前提としての文化があってこそみんなが共有できています。

例えばたぬきが化けるという昔話もみんなが前提として知っているから話として通じる。

神さまがバカンスをするというのも独自の八百万の神という前提があっての事ですね。

 

この本はとても内容的にも深くて関心させられました。が、その分レベルが高いかもしれません。

最後まで読んでいただきありがとうございました。